2008年7月21日月曜日

農業の大規模化

言われて久しいこの課題、一向に解決する兆しは見られません。 何故でしょう?

 1)「俺の畑は、そのうち高値で商業地として売れる」という所有者の意識
  農道の整備が国の助成金で行われると、地域の土木業者が潤い、やがてその農道は、県道、国道へと格上げされ、隣接農地は商業用地として高値で売却される。 それが今までの農業政策の現実だったのではないでしょうか? これは、また地方の税収を増やすという意味において、地域の行政には反対する理由は無いはずです。 また、農地として相続、保有している限り、税率も低く、あまり負担にもならなかったのも事実です。 結果として、「天下国家の食料事情よりも、目先の収入と、目先の税収」が優先され、細切れの農地が散在する現状があるように思います。
  大規模商業施設が田舎に出来ても、誰が買い物に来るのでしょう? その人達の買い物の為の原資は何処から来るのでしょう? 車で遠くから来てくれるようなことは、これからはあまり望めない、とすれば、その近隣に住む人が顧客となるはずですから、その地域の経済の状態によって、この様な施設が出来るか否かは決まるはずですし、大規模施設であっても、大企業にとって撤退は、無い話ではありませんから、大規模商業施設にはそれを支える規模の経済がその地域で継続的に維持されることが必要でしょう。 さもなくば、一部地域に既に見られるように、幽霊屋敷と化した元商業施設のみが放置された、荒廃した田舎の風景のみが残ってしまいます。
  農業の助成金が出ていた頃、田舎はパチンコ屋のオンパレードでした。 (作らないことで収入を得ていれば、必然的に仕事の無い日中の時間を潰す必要があり、その為にはパチンコは恰好の遊び場だった?) しかし、そのパチンコ屋を支える経済規模がそこに無ければ、パチンコ屋も存続は出来ません。 最近の田舎はパチンコ屋さんも減ったと思いませんか?
  長期的な視野での資産運用を適切にアドバイスするような機能が田舎には必要な気がします(幼なじみや、農協の「なあ、なあ気分とは離れて、親身にアドバスできるような」)。 これは、地方自治、いや今の国家運営その物にも求められているのかもしれません。

 2)「先祖代々の土地を守る。 他人には渡すな、という遺言」
  土地の所有制度が確率されたのは明治に入ってからでしょうし、殆どの農家が土地を所有出来たのは第二次大戦後だと思われますので、先祖代々は、高々4ー5世代でしょう。 しかし、この精神的な壁は、そんなに簡単に破れるものでは無いことも事実です。
  従って、所有権を尊重した上で規模拡大を図って行く方策が必要だと考えられます。
  農林水産省は、来年度以降、農地の転用許可に規制強化をして行くつもりの様ですが、1)で述べたように、転用が起こる現場にこの規制強化で潤う人は一人もいない事実から、合法非合法を含め国が意図した通りになるとは思えませんし、国の勝手な考えで地域経済に大きな障害を作ってしまうことにもなりかねず、大いに問題があると思います。
  国は、「農地に農家を縛り付ける」事に労力を使うのではなく、「規模の大きい農業をやれば、それなりに儲かる」為の枠組みを用意して、農家を効率的な農業に誘導する事に労力を使うべきだと考えます。

 3)「国家の品格」としての農業
  今まで(大正時代にも同じようなことがあったようですが)、効率の悪い農業は開発途上国に任せて、ひたすら効率の良い工業立国を指向して来てそれなりの成功を納め、経済大国となったのは事実です。 しかし、このパターンはマハティールのLook Eastを始め、多くの開発途上国の手本となっているのも事実で、「ねずみ講」状態になり始めているのではないでしょうか? 最初を走った日本は良かったけど、いつまでもこれを続けて行けば破綻します。 もう、いい加減貧しい国から、札束でほっぺた叩きながら必要なものを調達してくる、西欧帝国主義的な文化について考え直す必要があると思います。 特に、水資源の乏しい国が途上国として残り、先進国への農産物の供給を担うパターンになりつつあり、FAOの耕作可能農地の面積から見ても、殆ど破綻している考え方です。
  水資源に恵まれている日本は、農業でもっと世界に貢献すべき時が来ていると思います。 (今、基軸通貨がEuroになったら? ドルがいきなり200円/$になったら、60%の食料を海外依存している日本の経済は壊滅的な影響を受けることを想像したことが無いのでしょうか、政治屋さん達は? 円安を喜ぶ株式市場や経営者にも疑問があります。 トヨタも、キャノンも日本から輸出しているより現地生産している方が多いはずで、直接円高が経営に大きな影響を及ぼすようには思えません。 今どき、そのような経営をしていれば、大企業にはなれません。 最近の言動を見ていると、国内の賃金を抑えるために意図的に、過去の円高不況のイメージを利用している様に思われてなりません。)
  戦時国家に人的援助で日本人の犠牲者を出すのではなく、もっと日本人が得意とする分野での世界貢献という意味で、農業技術支援と共に、国内での農業生産の効率化と輸出を真剣に考える時が来ていると思います。
  監督官庁である農水省がGAPの日本版を導入した事が如実に表している様に、「日本の農業は、世界を相手にする必要が無い」と最初から諦めている事が、全てを内向きにしてしまっている様に思えます。  
  嘘でもいいから、「10年後には、日本は政界一のジャポニカ米輸出国になる!」というスローガンを打ち上げて、政策として推し進めて行く気概のある政治家が出てきてほしいものです。


農業規模拡大への方策の提案;
 1)農業法人の株式会社化
  ただし、議決権ある株式と配当の為の株式を分離する。
   議決権のある株式: 法人経営体 4
            資金出資者 3
            土地出資者 3
   とし、 配当は資金と土地の出資者に対してのみ、それぞれの出資割合に応じて行う。
   すなわち、分配利益の50%を資金出資者の間で出資割合に応じて分配する。 土地出資者に対しても同様。

  通常の株式会社と同様、予算、決算に付いては議決権を有する株主の33%以上の合意が必要とし、経営方針や実績に対して問題があれば50。1%以上の同意で、経営者を解任することが出来る。 (予算,決算には当然、作付け作物と予想収入、従業員、法人役員の報酬、利益の配分ー内部留保もふくめーが含まれる)

  これにより、土地や資金の出資者が当事者として法人の経営を監視することが出来、またその経営が不適切であれば経営者を交代させることも出来、自分の収入に対して(地代という固定的な収入としてではなく)責任が発生することにより、土地所有者が勝手に離脱することにより、法人経営が成り立たなくなることを回避することが出来ます。
  個人的には、現在の農業法人がなかなか大きくなれないのは、法人のみがガンバり,地域社会と遊離してしまっていることにも問題があると感じています。 地域を支える物、地域の雇用を支える物、地域経済を支える物として、もっと地域と協力融和して行かないと、長期的には難しいでしょうし、その為の一定の利益配分も必要でしょう。

 2)規模拡大によるメリット
   資材購入コストの低減
     規模拡大により、大量購入とメーカからの直送が可能となり、流通コストとエネルギー消費の低減に繋がる。
   販路の独自開拓と価格の決定権    
     漁業者(70%が流通コストとして取られている)ほどでないにしても、40ー50%と考えられる中間流通コストの削減とともに生産物に対する生産者の責任の明確化が図れる。
   固定費の低減
     更なる大型機械の導入と効率化が可能となる
   リスク分散
     作付け作物の分散、多角化により、気象変動や相場によるリスクの低減、及び作期の短い作物の栽培を平行して行うことにより、Cash flowを改善できる。

 3)出資者が経営に参画することのメリット
   当事者意識をもって経営に参画することにより、農村地帯に「経営」という考え方を啓蒙することが出来る。 結果として、自己利益だけの為に離脱するような行為が行い難くなると共に、長期的視野での資産運用を考える習慣も身につけることができるようになる。 また、農業経営を今までと違った見方をすることが出来、より効率的な経営を協力的な環境で構築して行くことが出来る。
   (田舎には共同体意識が存在する様にいわれていますが、本来利己的な存在の人間が、共同作業を必要としていた昔の村社会には、厳しい規律でこれを維持していた歴史があります。 しかし、現在の村社会ー特に都市近郊ーでは、この様な文化は殆ど廃れてしまっており、村社会は会社人間などよりも利己的な存在で、これが規模拡大の大きな障害になっているように思われてなりません。 これを、解消する為には、「協力して一つの目標に向かうことにより、必ず自分の生活が良くなること」を経験してもらうことだと考えます。)

 4)問題点
   この様な企業経営を担うことの出来る人間が、農村地帯にいるか?
    農業の新規参入障壁は、設備投資とCash Flowを考えると極めて高いので、既存の農家が、経営的手腕を持った人を雇うなどしない限り、かなり難しいのかもしれません。
   会社として、法的に問題は無いか?
    議決権と、株式を切り離した株式会社は自己矛盾しているので、このままでは問題があるのかもしれません。
    しかし、資本金と土地の価値をどのように評価するのか? は大変難しい問題です。 特に土地の価値は、そこからの収益が上がれば変動してしまいますので、どこまでいっても公平な配分公式を見出すのは難しいのではないでしょうか? 
    どのようにしたら実現できるのか? 可能性はあるのか? については???

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