2007年10月31日水曜日

農業規模拡大の問題点

先日、大規模農家の話を聞くことができたので、気がついたことを何点かメモしておきます。

 1)個人農家として30Ha位までは効率が上がるが、100Haになって大規模法人化してしまうと却ってコストがかかり利益が出なくなるケースがある。 (これは、工作機械の運搬用の車が必要、とか場所が拡散してしまい移動時間が占める割合が大きくなる、付帯設備への投資が必要になる等の要因)

 2)場所により、収量に480Kgから660Kg位までの差があるが、収量の多いところが「うまいコメ」が取れるところではない。

 3)田植え機、収穫機、苗作りのための施設、収穫物の貯蔵用低温倉庫等、兎に角売上と関係のないところで投資を必要としており、金がかかる。 (水稲はキャッシュフローが悪いために、その回収にも時間がかかる=コストがかかる)

 4)規模拡大をしても、市場では「お小遣い稼ぎ」の兼業農家と価格競争を強いられるので、結果として自立出来るようにするのには努力が要るし、今の助成金の体系ではこの傾向がますます強くなることが考えられる。(専業農家が却って不利になる?)

 5)裏作に菜種を提案して興味を持っていただいたが、殆どが早生の栽培(それも、うまくもないコシヒカリ)で、晩稲の栽培が行われておらず、水管理の面から検討が必要(一定の時期に取水門を閉鎖してしまう)。 ->唯、皆さんコシヒカリという名前では金を稼げない事を理解しておられるようなので、もうそろそろ、もっと多くの品種がバラバラと作られるようになるのではないでしょうか。 「日本晴」復活待望論もきいたことがありますが、、、。

 6)農協とその他と出荷を並行して行っている。 また、カントリーエレベータは殆ど使われていない。これは、農協の方が自分でやるよりもコストが高いことによる。 また、薄播きをした独自の育苗箱を使っていたが(病害を防ぐため)、これは農協からの購入が出来ないとの事、理由として育苗箱の枚数が増えすぎて対応できないから、との事であった。

 7)元の組合長との話も出来たが(この人は畑作農家)、組合長の当時(数年前?)何度も農家組合などを作って稲作の集約を図らないと生きてゆけない事を訴えてきたが、何も動かなかった。 それぞれのエゴと「何とかなる」「現状を変えることへの抵抗」等、思っている以上に農家の保守性と抵抗は大きいものと思われる(具体的にどうなるのか、いろいろなケースを作って示す必要があった?)

 8)田の区画がまだ小さ過ぎるし、受託したところがいかに隣接しているのかで、作業効率が大きく違ってしまう。 1Ha区画であっても、中に仕切りがあって3反以下の区画のところが多い。

 9)コシヒカリを始め、早生の優良品種は多いが晩稲の高品質米ってあるのだろうか?

 結論として、新規参入は「趣味の栽培」以外では、設備投資の大きなハンディを負う事になり、絶対に不利になる。 地域の営農指導が「栽培技術指導」(それも、分かっている事の追試ばかり)に終始しており、持っている土地を最大限有効利用して収入を最大化する為にはどうしたら良いのか、経営規模はどのくらい必要なのか、など農家の所得を最大化する為の本来の意味での「営農指導」になっていない事に問題がある。
収入を農業に依存している場合、Try&Errorは生活そのものを脅かしてしまうので、農協の圃場、県の試験場の圃場等での一定の検証試験が必要なのにそのようなことは行われていない。 また、小規模に他の作物を作ったとしても、その販売先や、水管理の協調性の問題など、単純には実験さえもできない状態にある。

 また、大規模化を考える場合、15~20Haの個人農家を10軒程度株式会社化して、その持ち株会社として、資材の購入、生産物の販売、人材の派遣、経理事務の集約を行う会社を設立して、既存の施設、設備を利用しながら、全体の効率を上げてゆくような工夫が必要であると考えられる。 (これって、本来の農協の姿なのでしょうが、肥大化しすぎた今の農協組織にはそのような力は残念ながら期待できないのでしょうね) 
規模拡大による設備投資負担が大きいことから、いきなり大規模化を図ることは命取りになりかねず、必ずしもあるべき方向性とは言えない。

可能性としての、エタノール用のイネの栽培(1000Kg/10a以上)でしかも稲藁もまとめてアルコール原料として処理できる施設(収穫物ー藁も含めー40~50円/Kg)と、菜種の栽培の組み合わせで、20-30Ha位あれば、既存の農家であれば自立できるのではないだろうか?(平場での話)  この場合、水稲の受粉の仕組みから考えて水稲に限っては遺伝子組み換えのラウンドアップ耐性稲で、湛水直播というのも可能性はあるのではないだろうか、、、 菜種のラウンドアップレディは存在するのだろうが、交配のメカニズムと蜜蜂の兼ね合いから、そう簡単には許可が下りないだろう、、、。

ところで、工業アルコール用の水稲や燃料用の菜種油を生産する場合、その栽培を管理する省庁は、やっぱり農水省?それとも経産省?

2007年10月21日日曜日

NHK日本のこれから「どうする?私たちの主食」について

全体的には、一人の意味不明な発言を除けば、夫々の賛成反対に関わらず、「何とかしなければいけない」という危機感を持っているように感じられました。 その方法の考え方によって、賛成反対は分かれていたように思いますが、「総ての人が、日本の農業が無くなってしまう事のないように、何らかの方法で農業の再活性化を図って欲しい」と願っていることを感じたような気がして、心強く思いました。
そのような観点で、過去30年間を振り返って(多分その前も同じだったのでしょうが)みると、「ビジョンの欠如した農政」こそが最大の問題であったし、今も問題なのではないでしょうか? 農家の疲弊、満蒙開拓、大東亜戦争への突入にしても、やはり根底には農業政策の失敗があったと信じている私には、「何の反省もなく、同じ付焼刃的な事を繰り返している、農政こそが最大の問題」だと思われてなりません。
輸入食料についての考え方も、輸出国は経済合理性のみで日本向け米を生産していることを考えれば、いつまで日本がこの経済優位性を保てるのか疑問です。 中国を考えれば、経済成長率は毎年8%で既にGDPは日本を超えていますし、日本人の所得を超えている人たちが日本人と同じくらいいることを考えれば、黒竜江省のコメが日本に向かわなくなるのは時間の問題かもしれません。  カリフォルニアについても、オーストラリアについても同じことが言えますし、この二つの国は水の供給から言えば、米の生産は必ずしも経済合理性が高いとは言えない国々でもあります。 輸入食料を考える場合には、そのような輸出国としての視点で日本を見ることも必要ではなかったかと思います。
政府の助成金政策が、ばら撒きの結果で終わったことを北海道の100町部農家がいみじくも示していました。 北海道空知地区の水田規模は非常に大きく、また天候にも左右され易いのですが、最初から水稲を作っていたら貰えない転作奨励金が、水稲から北海道農業の本来の姿である大豆等に転換することにより貰えるし、その基準が本州をベースに作られている助成金システムでは、それだけでぼろ儲けする農家が出てきてしまします。 申し訳ありませんが、私の知っている限り、北海道でも、空知地区の水稲農家の評価が必ずしも好ましいものではない事を、私自身体験しています。

いくつかの問題点が残されていたと思いますが、幾つかの素晴らしい解決可能問題の指摘もあったように思います。 
  朝食のご飯問題:確かに和食にしようとすると時間がかかる。 しかし、これは食品産業に新たなビジネスチャンスを与える指摘でもあった。 (10分で出来る朝食パックが、適当な価格で提供されたら?)
  助成金・補助金の問題:地域の状況を考えずに、面積当たり一律には問題があることははっきりしている。 今後、このような視点が加味されることが必要。
  大規模化の問題: 大規模化が可能なのは平坦地だけで、多分水田全体の三分の一程度でしょうから、大規模化によって生き残れる農業と、そうではない農業とをわけて考え、夫々に対策を考える必要がある。
  地産地消:流通コストにメスが入れらていない以上、非常に有意義な方法で、多くの地域すぐに適用できる方法だと思いました。 例えば、米でも、玄米貯蔵で、注文の度に精米して配達すれば、味覚的にはかなり改善されるでしょうし、地産地消であればそれは十分可能なのではないでしょうか。
  農業の役割:合意されるような明確な物がなかったように思います。 やはり、国民が全体として合意できるような日本の農業の役割を明確にすることが必要ではないでしょうか? ただ、地域文化を守るため、とか、米食は健康に良いとか、情緒的な話で終始してもらっては困りますが、、、。 環境保全についても、「緑を守る」といった、情緒的な話も説得力があるとは思えません。 また、農産物の工業原料的側面について何ら言及されていなかったのは、国内の生産が高コストで箸にも棒にもかからない状態だとの先入観からでしょうか? 工業原料としての農産物の視点は、食料の供給に苦労してきた歴史を持つ日本人にとっては、些か捉えにくいのかもしれませんが、先進国がそのように動いている以上、わが国だけが無関係ではいられませんので、早くそのような視点の議論もされるべきです。

議論全体から受けた印象をベースに私なりに、今後どうするべきかを考えてみると;
 1)国として、日本の農業の役割を明確にし、国民のコンセンサスを取る。
 2)そのコンセンサスに基づき、必要な政策を農水省が打ち出し、国会承認のもとに実施する。
 3)平坦地の農地と、中山間地の農地は自ずと役割も違うので、その政策には差があることを国民、農家が納得をし、受け入れる必要がある。

ということに尽きるのではないでしょうか。

「故郷納税」等という個々人の善意に頼るのではなく、合理的な計算根拠の元に、地方に税金が配分されれば、誰も文句は言わないのではないでしょうか? 例えば、都市部でのCO2排出は、地方での農地、林地で吸収されているわけですから、市町村毎の二酸化炭素排出量を計算して、日本の平均値より多いところから、少ない所へ配分されるようにすることに文句を言う人はいないのでは? 勿論、その上で更に夫々が努力する必要はありますが、都市部は「少しでも払わなくて済むようにする」ためであり、地方は「少しでも多く貰うため」ですが、そのような競争が始まれば、環境対策は大幅にその進捗が早まるのではないでしょうか?  また、大企業についても、外国から排出権を全量買うのではなく、30%は国内から購入しなければならないような規制をかけることにより、更に環境対策の促進を促すことになると思います。 そして、そのような資金源を得た地方が、農地や森林の保全に資金を供給することにより、地域の活性化と国土保全がなされることこそが、21世紀の日本のあるべき姿ではないでしょうか?

2007年10月19日金曜日

NHK の地球発!どうする日本「食と農業をつないでゆくには」

NHKは最近集中的に農業問題を取り上げていますね。 これで、明日はどのような方向の話になるのか楽しみですが、今日の分の感想を纏めておきます。

前回が「かなり悲観的な内容」だったのが、今日は一変して、「そこにはまだビジネスチャンスがある。苦しいのは、別に農業だけじゃない」という根底の流れがあったように感じました。 (前回の番組から、政府辺りから批判が出て、急遽作った番組か?と勘繰りたくなるくらいにトーンが違っていましたね。)
私の感じる所を幾つか;
1) 団塊世代の退職者を狙った就農政策は、問題を良くて10年先送りするだけで、真の農業問題の解決にはならない。 小規模、高コスト農業が団塊世代が本当に働けなくなる後10年程先送りされるだけで、その後には老齢者さえ、人口が減っているのだから。
2) 高価格を地元が受け入れるような農業も、いつまで維持ができるのか、極めて疑問で下手をすると、地域のすべてが落ち込むことになりかねない。
3) IT化、企業化(コスト意識)、マニュアル化、自らの需要者へ直接販売する、後継者の育成等が本来の進むべき道で、そのような活動をしている例が紹介されたことは、素晴らしいことだと思う。 残念な事に、水稲と野菜果樹では、生き残りのための必要条件が違うが、その点がまぜこぜになってしまっていた。
4) 収益の安定化とROAの最大化のために、もっと単作ではない栽培体系を真剣に考えてゆくべきだ、と痛感した(北海道はこの点非常に不利になるが、地球温暖化で、他の地域でも今まで以上に余地があるものと思われる。)
5)ついでに農水の資料を見ると、登熟期に高温に当たり品質低下を招いている水田がかなり見られるようなので、栽培体系についても地域により見直す必要があると思われるが、地域の農業試験場にはこのような方向性を強くサポートする心意気があるのだろうか、危惧される。(農業の不振が、農業研究など周辺に及ぼしてきた影響について、看過されているが、非常に大きいと思う。特に、この30年間で世代も入れ替われ、昭和30年代の農業振興に努力してきた人の影響が無くなってしまった近年は、基本的な事さえ知らない研究者が増えているように思われる。)

2007年10月16日火曜日

NHK のライスショック

日曜、月曜と放送されましたが、私には「漠然と米作が危機に立たされている事」は分かっても、その具体的な内容については理解できませんでした。  なぜ農業問題の放送って、情緒的な話に終始するのでしょう?
 以下、問題点;
  1)米の価格が「玄米」の価格と精米の販売価格が区別されずに述べられている。
    米の流通価格について、夫々のステップ毎に価格がどうなっているのか、示す必要があるのでは?

  2)「これではやっていけない」との声を、そのまま流しているが、その経費の内訳が示されていないので、「そんなものかな」以上になっていない。
    何にどの位の経費を使っているのか?細かく示して、それに対しての収入がどの位になるのか出してみれば、私のラフな試算では50Haの水田を3-4人で経営するところが損益分岐点になってしまいます。 そして、農業機械の減価償却、租税等が大きな負担になっていることがわかります。  また、農薬、肥料など変動費も流通コストを見直すことにより20%位の価格低減を図ることができるはずです。

全体に、「大変だ、大変だ。 あなたはどう対応する」といった危機感を煽るような内容ではありましたが、問題の本質をえぐり出すような内容ではなかった、と思います。
  農家の生産規模とか、農家の努力ばかりを求める内容になりがちですが、産地偽装をはじめ、農産物に関わる流通(生産資材を含めて)は必ずしも合理化されているとは言えず、農業問題を議論する時には流通についてももっと詳細にメスが入れられるべきです。 特に、農協離れをしている専業農家が増えている事からわかるように、助成金漬けの農業で培われてきた農協流通が全体のコストを上昇させている事実ははっきり示されるべきです。(農業をやらずに農家の子弟が農協に努めて、給与をもらっているケースが多いので、コストの高い農協の営業は子弟へのお小遣い的な意味合いがあるのかもしれませんが、このような事を認めていたら、農業が死んでしまいます。)

もう何点か考えてほしかったのは;

1)為替レートや経済成長により農産物の輸入は変動する。
  (現状が維持される保証が、想像しているよりは遙かに小さい、という事実)
  今の勢いで経済成長すれば、中国は10年で、日本に輸出する必要はなくなる? (日本海を渡れば、新潟の方が近いが、北京・上海に同様の値段で売れるのであれば、ブランド確立のために一時的に日本に輸出しても、その後は国内向けが主となる可能性の方が高い)

  米国も、為替レートが150円以上に下がれば、別の作物に転換する可能性がある(ストックトン、サクラメント辺りは、比較的湿地帯なので米の生産に適しているが、ロッキー山脈からの水を利用しているので、同じ水を利用している都市部との水の競合から、水を多く必要とする水田は必ずしも歓迎されている存在ではなく、利益性から、果樹などへの転換があり得るし、バイオエタノール等の為の小麦・キャノーラへの転換も考えられる。)

2)農業廃棄物の利用など、新しい局面への展開
  米単作農家が生計を立てるのには、かなりの大規模化が必要です。 裏作作物が本当にないのか、米以外も作ることにより、収入の安定化を図る方法はないのか、本来の営農指導がもっと積極的に行われるべきです。(営農指導と呼ばれているのは、ほとんどが生産技術指導に終始している現実は認識すべきです)。
  特に、農業廃棄物(稲藁)からのバイオエタノールの抽出などの技術は、もっと積極的な投資で早急に開発すべきです。 結果としての環境対策、地域の産業振興と、農家・農業の保護が図れるからです(バイオエタノールを生産するために拠点に稲藁を運ぶのは愚かな考えです。小さなエタノールプラントが多数必要ですし、出来ればガソリンとの混合もその地域で賄われるべきで、その意味での産業振興)。 なぜ、農水はここに注力しない? 農水では出来ないので、政府の省庁横断特別タスクフォースか?
  コメのたんぱく質でアレルギーを起こす人もいますが、一方、「抗がん物質が含まれている」ということも言われています。 農産物をそのまま食すことばかりではなく、このようなファインケミカルの原料としての開発も積極的に行われるべきでは? (これは農水?)

3)ブランド戦略の誤り
   「世界中でコシヒカリが作られている!」 いったい誰が許可したの? コシヒカリは誰のもの?(国の所有するブランド、品種)  国家戦略として、まったく誤ってはいませんか? 日本の商社が外へ持ち出したとしても、それに対して高いロイヤリティを課していれば、こんな問題にはならなかった。 そう、国内では自由に使えるが、国外での生産については高いロイヤルティを要求することは、血税を使って育種された品種である以上、正当な行為であるし、WTOにも抵触することはないと思いますが、、、。

4)そもそも生産性が低すぎる
   育種が、本来の目的の安定生産、多収量から逸脱して、高付加価値、収量はどうでもいい、になって30年以上、一反当たりの収量は「日本晴れ」の10俵から「コシヒカリ」の6-7俵に下がっています。 これだけでも生産性は30-40%低下しているのですから、経済原則に則ればやってられなくなるのは当たり前です。 一体、農政は何をやってきたのか?