2010年5月5日水曜日

農業とIT

農家の個別補償制度とか、世界的な食料問題などとは何か逆行しているような政策がまかり通っているので、すこし真面目に考えてみました。

 世界的な食料不足は今後も続く ー>
 各国は最大限の国内生産を行い、少なくとも途上国に食料を全面的に依存するような政策を止める必要がある(人道的な意味も含めて) ー>
 国際競争力を持つような農業生産技術及び生産基盤の整備が必要 ー>
 効率の良い生産をするために、(生産規模の拡大やバイオテクノロジーのみではなく)自然科学の知識と、細かいデータの収集管理が必要 ー>
 この分野でのIT技術の応用(更なる自然科学技術の発展)、それに市場価格等の情報の共有により、農業が最先端の技術産業となる ー>
 人と資本の新規参入が期待される ー>
 国際的に貢献できる生産技術の確立と輸出が可能となり、日本の技術優位を確立できるばかりでなく、互いに農業生産物を補完出きるような国際関係を構築できる ー>
 農業生産の維持と、安定した繁栄が享受できる。


では、農業に関わりIT が貢献できるものとは何があるだろう?
生産計画
自分の所有する圃場からの収益を最大化する為に、市況情報、天候の長期予測等の情報を総合的に判断した生産計画を圃場毎に計画する必要がある。 
このとき、過去の履歴からその圃場の特徴を押さえて計画を作る必要がある。 
有機や無農薬を謳うのであれば、対応する過去の生産履歴を近隣圃場の分も含め、管理しておく必要がある。
全ての圃場の生産計画から、労働の平準化をし、外部の労働力への依存度を調整する。 
生産資材の調達時期、生産設備のレンタル、リース等の最適化を図り、キャッシュフローの最大化を図る。

生産管理
播種、植え付けの時期からの気象データから、詳細な生育情報を取得し、作物の生育状況に応じた生産管理(水管理、施肥、耕起、農薬散布など)を行う。
日々の作業の記録を管理する。 開花、出穂等の観察情報の記録をする。
肥料、農薬は細かく管理し、最適な時期に最適なものを際適量使用するようにして、過剰な使用をしない様にし、コストを低減させると 共に安全性の向上を図る。
収穫時期も、気象データ(積算温度、積算の日照量?)から予測し、市況予測との調整から収入の最大化を図るよう収穫日を決める。

在庫・資産管理
生産資材、生産設備、農地等、其々が価値に見合って収益に貢献しているか常に検証し、効率の悪い資産はレンタル・リースなどに切り替える。
生産資材(肥料、農薬)は在庫の最適化と、購入価格の最小化を図るよう、購入時期、価格情報等を管理する。 
また、販売価格情報の収集を行い、不必要に多くの資金を投入しない。

財務管理・税申告
圃場毎の、投入資源と収入から、圃場毎に利益計算をして、圃場言に年間のROIを出し、翌年の生産計画の資料とする。
資金の借入れ、外部労働力の雇用等の最適化が行えるような財務管理が必要。
確定申告の書類が作成され、確認の上、電子申告出来る。

市況情報(生産物、生産資材)
市場の価格情報が過去3年程度は月と日にち毎に可視化出来るように管理する必要がある(東京市場、地方都市市場、ローカル市場)
生産資材の販売価格は、近隣のホームセンター、農協等の情報が可視化できていること。 配送のコスト、最小配送単位、注文から配送までの期間等が必要

気象情報
アメダス情報+補完できる気象情報(あれば)
地理情報
個別の圃場の位置を特定、図示化できるレベルのGPS情報と、可視化の為の地図情報が必要
有機栽培等の為に、近接圃場との距離(5メートル以上)が示せることが必要な場合がある。

航空写真(衛星写真)情報
生育状況、病害虫発生状況等を、自分の圃場だけでなく、より俯瞰的に把握することにより、防除時期の決定や出荷時期の調整などが可能となる。
米国などでは、衛星写真で窒素肥料の施肥管理をGPS付きトラクターで行う、等、衛星利用がされている(北海道の米で一部行われているー伊藤忠)。
水稲の作況指数のような、実際に坪刈りして調査するような方法は必要無くなるかもしれません


  農業は一般に経験と勘に頼る年寄りの職業だと思われがちだか、実際のところは科学的に判断するに足るデータが十分に揃わないために、データの不足を補う長年の経験や勘が使われてしまっています。 もっとも簡単な例として、作物の年齢(日令)を示す一般的な方法はありません。 兵庫農業試験場では米の品種により、植え付け時期からの積算温度で生育ステージを推定し、品種毎の収穫時期の予測をしているシステムがありますが、この方法が最適か否かは定かではありません(多分今のところ一番適切だとは思いますが)。 また、野菜などでは、この様な数値化できるような生育ステージの指標が存在するという事を聞いたことはありません。 例えば、植え付け時からの積算温度と生育ステージの相関が普通の野菜でも確認できれば、栽培管理は飛躍的に効率化できると思います。 作物に対しては、人間の健康診断や予防、治療に対応するような技術が未完成な状態で対処療法的な農薬の使用ばかり発展してしまった事は残念な事実として存在すると思います。
また、施肥管理や農薬の処理などを正規化した生育ステージ(日令)で示すことが出来れば、集合知としてこの様なデータの再利用が可能となり、栽培技術の向上に資することが出来るようになり、農業技術の飛躍的な発展に貢献する事が出来ると思います。 また、現在この様なデータは密着して毎日詳細な観察で収集するしか方法がありませんでしたが、正規化できる方法が見つかれば、多くのデータから一般化した情報が廉価に入手出来ることになり、利用者にシステムの運用コストを徴収するビジネスモデル以外の可能性も出てきます(農水省がコストをかけて聞き取り調査等で収集しているデータを、利用者の集合データとして統計処理することにより、個人情報を公開すること無く提供する事が出来、この様な情報を国を含めて必要とする人たちに販売し、ここから収益をあげることが可能となるものと考えられます)。

農業用システムの現状
 農環研、三菱、富士通等が多くの資源を投入して開発が行われているように推測されます。 三菱、富士通(クラウド化を発表)は外販されて居ますが、必ずしも使いやすいようには思えません。 (多くの情報を取り込もうと、多くの入力をユーザに要求し過ぎているように思います。 結果として、非常に複雑なシステムに見えます)。 また、農文協からはExcelを使ったこの様なシステムの本が出ています(兵庫の普及員さんの開発)。 また、利用者に課金する(PC用のソフトを販売する)というシステムになっていますが、これでは有機栽培等の証明の為のデータとしては利用できません(後日の書き変えを防ぐには?)。 クラウドの様なシステムで、変更履歴が確認できる(最低5年)様なシステムであれば、意図的な当初からの入力の誤魔化し以外については、システムが保証出来ます。
 もっと、現場の農家の使い勝手を反映させた、農家と密着したアジャイルな開発手法で開発された製品が望まれます。 また、最近のスマートフォンの普及を考えれば、「写真」と「音声」で作業履歴を入力するような事を考えるべきでしょう(音声入力は、文書に変換したものと共に保存)。
 また、病害虫の発生は別に自然に涌いてくるわけではなく、どこかに感染源がありそれが伝播してゆくわけですから(水稲のウンカなどは国内で越冬できない事が知られており、毎年ベトナムから中国を伝わって飛来してきています)、農家同士の「自分の畑でこんな虫・病気が発生していて、いつもより多い」といった発生情報も、県や国の発生予察情報と並んで大変重要だと考えます。 この様な観点から、農家同士が多くの生産に関わる情報を交換できる場も確保される必要があると思います。 特に、現在の発生予察情報は県単位で行われおり、県により作物や情報の提供の仕方にもばらつきがありますが、病害虫の発生には県などの行政区は基本的には関係ありませんので、行政区横断的な情報の流通・共有が必要です。
 生産物の市況情報については、各市場がバラバラの様式でネット上でも公表していますが、これもxmlなどで仕様を統一して、どこからでも統一的にどの市場のデータでも分析できるような状況を責任官庁は早急に構築すべきです。 市況情報が直接農家に伝わるようになれば、農家の取り分が増えるように成ることはあきらかです。 最近個別農家との相対取引が増えていますが、これでは農家は自分の販売価格が適切かどうかの判断が出来ていません(情報の不完全性、一方向性、買い手は多くの農家と交渉しますから、一方的に多くの情報を持って判断しています)。 流通による虚偽のブランドによる販売と共に、販売者たる農家の地位向上の為には絶対に必要なインフラで、早急に整備されるべきです。

最後に
 「少しづつ作ってみよう」と考えて始めて見ましたが、大変規模が大きく、開発資源も多くが必要とされることは明らか(会計、財務、在庫管理、販売とこれらの分析)で、個人で考えるべきものでもないので、現時点で時点で考えていることについてまとめてみました。
 どなたかの参考になって、農業のIT化が飛躍的に発展し、日本の農業に反映がもたらされれば幸いです。